医療系ベンチャー企業A社は、短期間で業績が急伸。ベンチャーキャピタル(VC)からの投資も実現し、順調な経営をしていたが大口取引先(総合病院)の経営悪化のあおりで未回収金が経営を圧迫した。経費大幅削減のためやむなく縮小、オフィス移転を決断した。
定期建物賃貸借契約の損害金と明渡しに伴う原状回復費、移転先の入居工事、システム工事の費用などの立替費用で悩んでいたところ、明け渡しのエキスパート集団 一般社団法人RCAA協会(原状回復・B工事アドバイザリー協会)の運営母体である(株)スリーエー・コーポレーションの萩原大巳に相談。結果、原状回復適正査定、移転先のB工事査定を業務委託することにした。
概要
概要 | 賃貸借契約「定期建物賃貸借契約」 |
賃貸人 | 株式会社第一ビルディング |
賃借人 | 医療系ベンチャー企業 A社 |
住所 | 東京都千代田区 九段ファーストプレイス |
賃借部分 | 6階 810.68㎡/245.23坪 |
ビル管理会社 | 株式会社第一ビルディング |
指定業者 | 前田建設工業株式会社 |

ポイント
大手保険会社の不動産関連会社で、東証一部上場の資産ビルダーであり、PM(賃貸経営管理業務)、BM(ビル管理運営)も同社が担っている。指定業者は、東証一部上場のゼネコンである。
結果
初回原状回復見積金額 | 28,512,000円 |
合意金額 | 15,660,000円 |
削減額 | 12,852,000円 |
削減率 | 45.08% |
定借中途解約損害金 | 7,798,876円 → 3,610,592円 |
(総額表示)
問題点の抽出
- 定期建物賃貸借契約の中途解約損害金をできる限り少額にする。
- 移転先の家賃と移転元の家賃のダブル支払は、回避する。
- 原状回復費用をできるだけ削減していただく。
- 原状回復費用の立替費用が発生しない方法として、敷金より差引く「敷引き対応」をお願いする。
極めて難易度が高い協議ですが、1~4について賃貸人、賃借人ともWinWinの提案を行うため移転プロジェクトチームを結成した。チームメンバーは萩原大巳、小川友幸、城ノ下英茂の専門家と賃借人管理部責任者である。
論点の構築及び協議の重要事項
幸い賃借人A社の移転先オフィスは、新しく価値のあるデザインオフィスであるため、賃貸人PM責任者に諸造作、設備のリユースによる有効活用を、次の入居(一部居抜き)を希望するテナント様へリーシングが可能か、数回協議してお願いした。
賃貸人の承諾と全面協力のおかげで、一部造作、設備をリユースすることが可能となった。
問題点の解決
- 中途解約損害金が、50%削減となった。
- 移転先、移転元のタイムスケジュールの擦り合わせにより、ダブル家賃の発生を回避できた。
- 原状回復費用は、一部造作を次のテナントが有効活用することとなり、値引きと合わせると「12,852,000円(総額表示)」削減できた。
- 原状回復費用については、入居工事と原状回復工事を同時進行のため、原状回復負担金という発注方法により敷金より相殺ということで賃貸人及び指定業者の承諾を得ることができた。
賃貸人側の利害関係者が、真摯な姿勢でオフィス移転の相談にのってくれた。賃貸人、賃借人が力を合わせ、次のテナントリーシングに成功したことにより1~4の問題をすべて解決できた。
賃貸人の第一ビルディング様と前田建設工業の担当責任者様に感謝です。普通のPM担当責任者ですと定期建物賃貸借契約書を遵守して「契約書通り原状回復義務を履行してください」と官僚的な回答しか返ってきませんが、誠意をもって対応していただいたことが成功の要因と思います。

定期建物賃貸借契約(定借)の解説
- 定期建物賃貸借(定借)は、更新がなく賃貸借期間満了により契約が終了する賃貸借の一形態です。
- 原則として中途解約はできず、解約合意しても、契約満了までの家賃は賃貸人に家賃請求権があります。
- 期間満了まで空家賃を損害金として請求されます。移転先、移転元の家賃がダブルで発生することになるわけです。それに加えて、もちろん原状回復義務も追及されます。