原状回復工事の見積もりが高額だった場合、見積書だけでなく契約書の内容も精査する必要がある。契約書に書かれていない工事が不要であることは、別の事例でも度々紹介してきた。しかし、契約書に書かれた工事が絶対ではないケースも存在する。
これが原状回復工事における素人判断が難しい所以でもある。
賃借人の概要
IT系企業のココネ株式会社
仙台駅前にあるアゼリアヒルズに入居
10階53.72坪
賃貸人の概要
三井住友信託銀行株式会社が賃貸人。PM(賃貸経営管理業務)は三菱地所プロパティマネジメントが務め、指定業者は大成建設
入居工事をほとんどしていないのに坪単価約9万円の高額見積もり
賃借人は、空調のリモコンと自動制御システムが隣のテナント内に設置されていることに不便を感じ、オフィス移転することにした。指定業者からの見積もりは、およそ460万円で、坪単価にすると9万円近いものであった。入居時の工事をあまりしていないため、この価格は割高だと感じた賃借人は、プロトライブ株式会社が運営するWebサイト「原状回復コンシェルジュ」に相談。業界トップレベルの信頼と実績を有する株式会社スリーエー・コーポレーション(3AC)を紹介された。
本事例の問題点と協議結果

3ACは早速契約書と見積書を確認。主な問題点として以下の2点に整理することができた。
天井ボードの全面張替
一番の高額の原因は、天井ボードをすべて交換する工事になっていたからであった。天井の更新だけで100万円以上が見積もられていたのである。
この工事を実施する法的根拠は、契約書に「システム天井全面張替」とあったからだったが、3ACの専門家からは原状回復の定義から逸脱した工事ではないか、という疑義が出された。
ちなみに原状回復の定義は、国交省が出した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で次のように示されている。
「原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」
区画形成部分の戸境壁(隣接するテナントとの間の壁)の全面交換
建物の原状回復基準資料を確認すると、「破損部分のみ交換」とあった。本事例の場合、破損箇所が見当たらず、交換は不要でクリーニングで十分原状復できるものと考えられる。
このほか、工事の規模から足場は持ち込み対応ができたり、入居時に移設していない電気設備についてはクリーニング対応が妥当だったり、仮設、諸経費、管理費を「旧四会連合約款の指導する見積方法」で見直し可能だったりと、見積書の問題点を浮き彫りにした。そのほか、カーテンレール・パーテーションの撤去、LAN・コンセント工事は賃借人側で工事する(B工事ではなくC工事とする)こともできると判断できた。
以上をリーガルレターにまとめ、3ACが行った査定の見積書や議事録を付してPM及び指定業者の担当者へ送付。この結果、300万円で合意することに成功した。当初の見積額が約460万円だったので、およそ160万円を削減することができたわけである。
ココネ社からいただいたコメント
この度は、御社のご助力もありターゲットプライスで着地することができました。また日程もギリギリ間に合わせることができ、本当に良かったと思っております。ご支援いただきありがとうございました。(ココネ社担当)

本事例では、見積もりで「全交換」となっていた天井と壁を見直し、そのほか過剰な対応になっていた部分を工事規模に合わせて適正化させることで工事費を削減させることができた。
特に本事例の天井の工事においては、契約書に基づいたものであっても、場合によっては疑義を唱えることができることがあるという良い例になったと思う。特にスーパーグレードビルの天井は、基本的にすべて新品に貼り替える契約書になっているので注意が必要だ。
素人が契約書と見積書を見比べて問題ないからと諦めてしまうのは早計である。自己判断で問題なかった見積書が、専門家に確認してもらうことで工事費の大幅な削減が可能だった例は珍しくない。