本件の原状回復は「スケルトン」がテーマになっている。ただし、賃貸人が「原状が不明」という、少々こじれた要因があり、素人同士の協議ではトラブルが不可避であった。
スケルトン工事の問題点とともに紹介する。
賃借人の概要
株式会社リリーフが運営するネットカフェ
アプレシオ新座店 | 860㎡/282坪 |
アプレシオ元厚木店 | 784.58㎡/237.34坪 |
あなたのビルでも起こりうる「スケルトン工事をできない状態」
賃借人は、閉店に伴って解約明渡しを行うことになった。
解約明渡しには原状回復工事をする必要があるが、賃貸人側は「原状が分からないのでスケルトン工事でお願いする」と伝えてきた。
しかし、入居時の賃貸人側設計図書は不明確なもので、賃借人も新築時に入居したため躯体部分の変更をどこまで行ったのかが不明であった。つまりスケルトン工事をしようにもできない状態である。
こうしたトラブルは入居時の「スケルトン」の状況があいまいなときに起きる。設計図面の記録、原状変更時の記録、そして工事区分表の明確さがなければ、どのビルでも同じような問題が起こりうるので注意が必要である。
知っておくべきスケルトン工事の問題点

スケルトン工事は、建築物の主要構造部分以外は撤去してしまう工事である。入居時がスケルトンであれば、原状回復はスケルトンになる。しかし、トラブルが起きてしまう可能性もある。
例えば、
・窓を開口し加工して排気設備を作った
・エアコンを設置するのに屋外まで冷媒管などを貫通させた
・屋外の水道やガスメーターから室内に引き込む配管を貫通させた
こうした場合、スケルトンにすると、設置したものを撤去し、穴を塞ぐことになるわけだが、次の賃借人がまた同じことをするためにまた貫通させることも珍しくない。これは、賃借人にとっては無駄な工事だし、賃貸人にとっては建物へのダメージが余計にかかってしまうことになる。全く非合理的と言わざるを得ない。
大型ショッピングセンターや商業施設の場合、入居時の工事区分表と退去時の原状回復要綱などを詳しく記載するが、一般の建物賃貸借ではそうした記載がないケースが珍しくない。
「契約当時の担当者がいれば」という方もおられるが、残念ながらあまり意味がない。「取り決めの証拠」がなければ、結局はトラブルに発展してしまうのだ。
本件はどうやって解決したのか
当初賃貸人から見積もられた退去工事費用は、2店舗合計で1300万円であった。しかし前述のように工事の範囲があいまいなままであり、納得のいく価格とはいえない。
そこで賃借人は、原状回復やB工事の専門家であるRCAA協会会員のスリーエー・コーポレーション(3AC)へ相談した。
3ACは、あるだけの図面を参考に、入居する時のような『工事区分表』を作成。賃貸人・仲介管理会社・賃借人との間で数度の打ち合わせによって原状回復区分と範囲を決めた。この結果、工事費用を1100万円へ減額することに成功。賃借人も納得できる工事内容となった。

オフィスでも店舗でも、「スケルトン」という言葉はあまり使用しないほうがいいです。
入居時の工事区分表と退去時の原状回復要綱に従って工事を行うことが、退去時のトラブルをなくす一番の方法です。
仮にその取り決めがない場合は、新たに作成し、解体撤去部分・残す部分・補修する部分・復旧する部分を一つひとつチェックすることが望ましいです。とはいえ、この作業は専門知識が不可欠ですので、納得の行く取り決めを作るには必ず専門家へ相談することをおすすめします。