オフィスを移転する際に必要になるのが移転元の「原状回復」、移転先の「B工事」です。
これらについて、「聞いたことはあるけど、詳しいことはよく知らない」という方、なんとなくしか分かっていない方のために、基礎知識の確認をしたいと思います。
今回は、移転元の「原状回復」について解説していきます。
※移転先の「B工事」については、こちらをご覧ください。
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オフィス移転時のキソ知識(移転先B工事編)
オフィスを移転する際に必要になるのが移転元の「原状回復」と移転先の「B工事」です。 オフィス移転にはこれら二つがセットで発生することが殆どです。 今回は、移転先の「B工事」について説明したいと思います ...
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そもそも原状回復とは?
原状回復(英語表記)restoration
原状回復を辞書的に調べると、以下の通りです。
一般には、ある事実が生じなかったならば本来あったであろう法律上または事実上の状態(原状)に戻すことをいうが、民法上は、契約解除または不法行為の場合において、契約または不法行為がなかった元の状態に相手方を回復させることをいう。
借地借家法における原状回復とは?“現状”回復とは違うの?
一般に不動産において、「原状」とは借りた時の状態を指し、「現状」とは今現在の状態を指します。
例えば、築10年の賃貸物件を借りて10年間入居していた場合、原状回復とは、入居時点の築年数10年プラス入居期間の10年で、20年前の状態に戻すことを指します。したがって、「退去時に現状回復をする」という表現は誤りで、「原状回復」が正しい表記になります。
※賃貸借物件の入居時に、賃借人の要望によって内装、設備を変更することは「原状変更」といいます。
また、原状回復とよく似た用語として「原状復帰」がありますが、原状回復は、民法上の法律用語であるのに対して、原状復帰は元の状態に戻すという建築用語です。つまり意味的には同一の言葉です。
もともと借地借家法における原状回復とは、賃借人の保護を目的としていました。
賃借人が自分で電気やその他設備を用途に合わせて施工し、賃貸借契約が終了して明渡す際に、原状へ戻すわけですが、施工された設備は賃借人の資産であって、収去(撤去)することを定めていたのです。つまり原状回復は収去する権利を指す言葉でもあるわけです。
また設備の性能変化が激しい現在、何年も前の「原状」に戻す原状回復という考え方自体に問題があるという意見も聞かれます。確かに、エアコンなどをメーカーの取り扱いも終わったような古いものに戻せ、と言われたら違和感を持つことでしょう。
原状回復における工事区分とは?
原状回復にはA工事、B工事、C工事という区分が存在します(区分の名称は甲乙丙だったりすることもあります)。
この区分、もとは賃貸人の資産、賃借人の資産を保護するために設定されたと考えられます。資本主義経済においては、資産を所有者が自由にできるということが基本です。したがって、すでに触れたように原状回復は賃借人の資産の収去も意味しています。
原状回復は工事業者に依頼して行いますが、発注者や工事費用の負担者が誰なのか、また誰が工事業者を決められるかによって、A工事、B工事、C工事と区分されます。これらは基本的に契約書の添付資料である「工事区分表」に記載されていますが、詳細はビルによって異なるため、絶対に確認してもらいたい資料のひとつといえるでしょう。
賃貸人(貸主)、賃借人(借主)の資産区分(工事区分)を表にすると、下記のようになります。
費用負担 | 工事業者 | 資産 | |
A工事 | 貸主 | ビル指定業者 | 貸主 |
B工事 | 借主 | 入居指定業者 | 貸主の資産を借主が 変更したもの |
C工事 | 借主 | 入居指定業者 | 借主 |
A工事・B工事・C工事の違いを徹底解説!
上の表だけでは、「A工事、B工事、C工事」の具体的な違いがイメージしにくいと思います。そこでここからは、各工事区分について分かりやすく解説していきたいと思います。
工事区分を理解することは、不当な原状回復工事を見破るうえで非常に重要です。
A工事とは
A工事とはビルの構造そのものの工事を指します。具体的には躯体、トイレやエレベーターなどの共用施設、ビルの基本の電気、空調、防災その他設備の工事が該当します。
賃貸借契約書に原状について特別な規定がない限り、「そのビルの原状」はA工事終了後の状態と定義できます。A工事に関するトラブルとして、土地建物の所有者が変わったりして、そのビルの原状を把握できていないことから起きるケースがあります。
現在は資産の流動化によってビルの所有者が頻繁に変わり、テナントから選ばれる不動産になるべく大規模修繕工事が頻繁に行われていることが原因です。
入居時や工事の際にきちんと確認し、文書化しておくことが重要です。
B工事とは
B工事は借主であるテナントにとって原状回復工事のメインとなる部分といっていいでしょう。
B工事とは、貸主の資産を借主の希望で変更するための工事を指します。例えば、間仕切りを作りたい場所にエアコンがあった場合、エアコンを移動させる必要があります。
間仕切りの設置そのものはC工事に分類されますが、エアコンは貸主であるビルオーナーの資産になるため、それを移動させる工事はB工事ということになります。
貸主の資産に手を加えることは、ビルの安全性に影響がある部分を工事しなければいけないことが多いため、基本的に貸主が指定する業者が工事を行います。
安全性を担保するという面から業者を指定するわけですが、それにより業者が固定化し、競争原理が働かなくなり、コストが高くなってしまうという側面もあります。
B工事は借主がオフィス移転をすることになり、原状回復をする際にほぼ確実に行う工事です。また、指定業者の問題もありコストのかかる工事でもあります。
B工事の中にA工事やC工事が含まれていないか、コストが適正価格を逸脱していないかなど、しっかりと確認してもらいたいと思います。
C工事とは
C工事とは、借主の資産に分類される部分を変更するための工事を指します。具体的にはカーベットの張替えや家具什器の設置などが挙げられます。入居するオフィスで自社のカラーを出したい企業などは凝ったデザインをしたりします。
B工事のように貸主の資産の変更を伴わないため、工事費用は借主が負担することになりますが、自分たちで業者を選択できます。したがって、相見積もりなどが可能なため競争原理が働き、TQC(※)を握ることができます。
注意点としては、「自分の資産だからと勝手に判断せず、工事を行う際は貸主に確認をして文書化したほうがいい」ということです。こうした心がけで退去時のトラブルリスクをぐんと下げることができるでしょう。
※TQC(Total Quality Control、トータル クオリティー コントロール)とは、総合的品質管理あるいは全社的品質管理と訳される。
基礎知識で対処できないときは専門家へ相談を!
今回は原状回復の基礎知識として、原状回復という言葉の意味と、トラブルの種になりやすい工事区分について解説しました。これを知っているだけでも、原状回復工事の際に適正ではないことが行われそうなときに違和感を持てるようになるでしょう。
ただ、今回ご紹介したことはあくまで基礎的なものなので、オフィス移転を控えている担当者のなかで「この工事はB工事と言われているけどA工事じゃないの?」といった疑問が生じた場合、専門家に相談することをおすすめします。
原状回復工事は不動産や法律、建築の知識を必要とするため、素人判断ではこじれさせるばかりです。法に準拠した適切かつ早めの対処が重要です。