B工事費と原状回復工事費を可視化しなければ、実行予算は意味をなさない
オフィスを移転する際について回るのが「B工事」と「原状回復工事」です。
多くの企業担当者がこの二つの工事を高いと感じていますが、ビルに紐付いた指定業者だから仕方ないと諦めています。
本コラムはこれらの工事費が高額になる理由をわかりやすく解説し、適正工事費で発注することは借主の正当な権利の行使であることを説明します。
都心部の築浅300坪オフィスの実例
まず皆さんに、オフィス入居時のB工事と、退去時の原状回復工事が高いということの実例をご紹介します。これは、ある一部上場ゲーム開発会社に請求された額になります。
この会社は、都心部で築浅300坪のスーパーグレードビルに入居していました。移転先の入居時に行った全てのB工事費用と、退去する際に請求された原状回復工事費用は以下の通りです。
①【移転先】某スーパーグレービル 新宿区新宿3丁目 | 入居B工事:91,800,000円 ※内装造作、諸設備全てB工事とする実質全面指定工事 |
②【移転元】マインズタワー | 原状回復工事:41,600,000円 |
(全て総額表示)
②の原状回復工事は、オフィス移転の際に発生する費用ですから、工事費用そのもの他にも廃棄物処分費や、引越し費用もかかります。したがって総額にすると5,000万円以上の出費になります。
入居B工事
初回見積 | 120,960,000円 |
再見積 | 91,800,000円 |
合意金額 | 84,240,000円 ※VECD |
削減額 | 26,720,000円 |
削減率 | 30.4% |
(全て総額表示)
原状回復工事
原状回復の範囲の見直し、天井は全て新規貼替なぜ?
初回見積 | 77,200,000円 |
再見積 | 52,920,000円 |
合意金額 | 48,600,000円 |
削減額 | 28,600,000円 |
削減率 | 37.04% |
(全て総額表示)
いかがでしょうか?
会社の規模によって変わると思いますが、都心部で300坪のオフィスのB工事、原状回復費用として「適正価格」だと感じますか?
査定員 山田 貴人
普通の感覚であれば、「何でコンペ参加業者の3倍近い価格なの?」「高い。適正とは言えない」という感想を持つと思います。
高額になりがちな入居すべてのB工事や原状回復工事の費用ですが、実際、これらの費用はオフィス移転にかかる費用総額の約6割を占めると言われています。
それではなぜ、入居時に行うすべてのB工事や、退去時に行う原状回復工事は適正とは言えないような高額になってしまうのでしょうか。
オフィス入居時のB工事が高い理由
B工事は配線の変更を伴ったり、中央管理室を制御するためビル全体の施設運営に影響を与えます。ビルオーナーにとって資産価値に直結するデリケートな工事区分になるわけです。
特にビル全体が電子制御されているインテリジェントビルは、コンピューターですべて自動制御されています。省エネシステムなどに対応しているグレードの高いビルほど高額になります。
しかし、いくらデリケートな工事区分とはいえ適正でない価格が許されるはずはありません。入居の際のB工事が高額になる理由としては、主に以下のようなものが挙げられます。
理由 ①
ビルオーナー側が工事業者にゼネコンや大手ビルマネジメント会社を指定するから
資産価値に直結するB工事はとてもデリケートなので、入居先が大規模ビルの場合、多くのビルオーナーは入居B工事を担当する業者として、安心して任せることができるゼネコン、大手ビルマネジメント会社、ビル常駐の大手ビルメンテナンス会社を指定します。
ところが指定されたゼネコンやビルマネジメント会社は、工事を下請け業者に発注し、その下請け業者は孫請け業者に発注します。これらの重層下請構造によって、コストが雪だるま式に膨れ上がってしまうわけです。
また、ゼネコンやビルマネジメント会社は、必要以上の仮設工事や諸経費を盛り込んだり、現場管理費、会社経費、福利厚生費などを計上します。こうした点もゼネコンや大手ビルマネジメント会社に依頼することで高額になる要因になっています。
理由 ②
設計事務所やPM会社も減額交渉に消極的だから
もしテナント側がB工事を高額だと感じ、少しでも減額できないか設計事務所やプロジェクトマネジメント会社(以下、PMという)に価格交渉をお願いしても彼らはポジティブに交渉しません。
なぜなら、設計事務所やPM会社はビルオーナー側にお世話になっており、今後もテナント設計、施工、PMRを受託し、ビルオーナーやビル側との関係性を考慮するからです。彼らにとってテナントは一回限りのお客様ですが、ビル側は継続的なお客様という立場にあるのです。
よって、入居B工事の金額が高くても減額協議を積極的に行おうとはせず、高額なままになってしまうのです。
理由 ③
B工事では多くの箇所を工事しなければならないから(建物すべてリンクするインテリジェントビル)
最近のビルはインテリジェント化が進んでおり、例えばパーテーション等を入れるだけでも、ビルオーナーの資産である天井設備やその他設備、電気、空調、防災、弱電、セキュリティなど工事の範囲が広がりやすく、その分費用がかかってしまいます。グレードの高いビルほどこうした傾向が見られます。
また、B工事がたくさん行われるということは、将来オフィスを移転する時の原状回復工事費用も高額になることを意味します。入居B工事を行う際には退去時の費用も考慮しましょう。
入居する際、今までのオフィスよりも良くしたいと思うのは当然ですが、予算も考えずこだわりの内装工事をすると思わぬ高額な工事費用となります。
よく考え、可能な限りビルオーナーとのしがらみがない専門家と対策を講ずることが効果的です。
また、入居B工事の絶対的な注意点として、入居の際B工事とし発注した単価費用は、そのまま原状回復工事で認められるケースが多いことです。理由としては、入居の際B工事の費用を円満合意しているのに、退去の際は、「原状回復が高いとクレームをつけているのはテナントだ」というビルオーナー側の主張です。
しかし、事実は、テナントは「これからお世話になるビルオーナーにあまり値引きを要求して心証を悪くしては…」とのテナントの配慮ですが、ビルオーナー側はそこを証として退去の際の原状回復費の根拠としますので、上記の対策は専門家に相談して対応しませんと莫大な原状回復費で請求をされ、泣く泣く原状回復を発注する事となるため注意が必要です。
原状回復工事が高い理由
原状回復工事の目的は「今のテナントが退去したあとも、引き続き貸し出すことができるクオリティを維持すること」です。費用はテナント負担なので、オーナーとしては費用よりも建物、品質のグレードアップを要求する傾向にあります。
原状回復工事が高い理由としては以下のような理由が挙げられます。
理由 ①
ビルオーナー側が工事業者を指定するから
テナント側は、原状回復工事をなるべく安くしたいと考えるのが普通です。そこで、工事費用の安い業者を自分で探して工事してもらおうとします。
しかし、ビルオーナー側としては、知らない業者に手抜き工事でもされてしまうと資産価値が下がる恐れがあります。
ですから、オフィスの賃貸借契約の場合、基本的にはビルオーナー側が工事業者を指定できる契約になっているケースがほとんどです。
これは、テナントに安全、安心、快適を提供する義務が賃貸人にあるため、指定業者が認められる法的根拠です。ビルの品質維持という観点からすると合理的かもしれませんが、業者間での価格競争が働かないため、どうしても最終的に高額になります。
(公正取引の問題)EU圏内ですと、オーナー指定は公正取引の関係で難しいのが現状です。EU、米国は、原状回復と入居の際のB工事という概念がありません。
理由 ②
本来テナント側が負担しなくていい工事まで見積もりに含まれているから(原状回復の範囲)
- 「賃貸借契約に含まれていない共有部まで工事内容に入っていた」
- 「必要以上の部材の数量が計上されていた」
- 「契約書に書かれていない、天井の新規更新、LEDの新規更新、ブラインドの新規更新といった項目が見積もりに入っていた」
- 「日中にできる工事が夜間作業として入れられ、割増の金額が算定された」
- 「中央管理室の工事が含まれている。これって、テナントが負担する工事なの?」
原状回復に関する知識がないと、こうした工事項目に気づきません。
「高いな」と思いつつ、オーナー側と金額交渉することなくオフィス移転を終わらせてしまっているケースが非常に多いのです。
理由 ③
オーナー側の指定する業者の重層請負構造になっているから
入居B工事と同様、原状回復工事の場合も請負形態がゼネコンや有名ビルマネジメント会社からはじまり一次、二次、三次、四次と階層化された「重層下請構造」になっています。
したがって必然的に費用がかさんでしまいます。
理由 ④
指定業者がサバヨミの見積もりをするから
原状回復工事をする場合、本来であれば業者が現地を細部まで確認し、適正な金額、工事内容で見積を作成すべきです。
しかし実際は、現地調査が行われず、図書及び原状回復特約、仕上表などの情報だけで見積もりを作ることが慣例化しています。
この結果、修繕、修復で済むものを新規取替えするサバヨミの見積となります。当然費用は高くなるでしょう。
また、テナント側は不動産や建築の知識がないことがほとんどです。
「原状変更図書」、「貸方基準図書」、「仕上表」、「工程表」、「賃貸借契約書」、「工事区分」、「内装工事指針書」など、見積もりの根拠となる資料もビルオーナー側は開示しないケースが多く、説明責任を果たしていません。
原状回復の工事は専門家でないと可視化できません。仮に原状回復工事の減額交渉をしようとしても、テナント側は極めて不利な立場で交渉することになります。
原状回復工事の見積もりに驚いたテナント側が自分たちで業者を探し、相見積もりを取って交渉しようとすることがありますが、これは注意が必要です。
相見積もりで工事項目に工事単価を値入れはそこに書かれた項目を全て認めたことになってしまうからです。
先に書いたように、本来不要な工事までされてしまうケースがありますから、工事の根本から適正かどうかを専門家に見てもらうことが一番といえます。
専門家 萩原よりワンポイントアドバイス
オフィスの入居B工事も原状回復工事も、高額になるには明確な理由があるのです。しかし、その理由はご紹介したように非合理かつ、ソーシャルグッドではありません。
一般社団法人RCAA協会及び協会会員には工事セグメントごと専門家がいますので、原状回復工事、B工事について専門知識に裏打ちされたアドバイスをご提供することができます。適正価格で工事発注する事はテナントの正当な権利です。
おわりに
日本独自の原状回復、移転先B工事・高額な預託金(敷金)制度、これらの社会問題に対処することを目的として民法改正が2020年4月行使されました。
原状回復の定義範囲工事項目の明文化(民法第621条)、預託金(敷金)の目的の明文化、敷金返還時期の明文化(民法第622条の2第2項)、改正民法は原状回復工事、B工事、敷金、指定業者制度の問題行為に対する最高の考慮すべき事項です。
この応用について、「おかしい、変だ、高い」と思いましたらRCAA協会にご相談下さい。